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第7話 「いつか来た場所」

 3日目……終了。
 時計のテッペンは相変わらずの13。俺のフィルターもますます弱まり、かなり小さい”飛んだ”も感知できるようになっている。有島も俺も「まるで成果無し」で一致した。

 4日目……終了。またもや、まるで成果無し。
 正直、今まではどこか楽しんでいる部分があった。俺は未知の経験の連続だし、有島は初めて状況を共有できる相手との冒険だ。夜はちょっとしたお泊まり会。何だかんだ言いつつも、有島も楽しんでいたようだ。しかし、歩き通しの肉体疲労と成果を伴わない結果が、楽しむ余裕をすっかり奪っていた。

【八木アキト】
「世界に違和感を感じる。なんか居心地が違う。ここは俺のいるべき場所じゃない……だから上手く行かないんだよなぁ。歯車が合わないんだよ、ハナッから」

【有島美緒】
「いるべき場所ならきっと上手く行くのかな? もしかしたら、今までも上手く行かない時って違う世界に迷い込んでいたのかも。このまま上手く行かない世界から抜け出せなかったらどうなるんだろう……。上手く行かないから、抜け出す事も出来ないで……」

【八木アキト】
「それ、すげぇ恐いなぁ……。飛ばされてハマっちゃう人もいるんじゃないのか? 何をやっても上手く行かない人っているもんなぁ」

【有島美緒】
「順調だったのに、急に何をやっても上手く行かなくなる人とか……いるよねぇ」

【八木アキト】
「俺達もそうならない事を祈らないとなぁ」

【有島美緒】
「そうだね……」

 有島は俺に対するバリアーを緩め、良くも悪くも俺に弱音を見せらるようになっていた。俺達はネガティブ全快だった。


 5日目朝。
 私は、この冒険を打ち切る提案を切り出す。

【有島美緒】
「今日駄目だったら……別行動にしよう」

【八木アキト】
「そうだな……こんな生活をずっと繰り返してる訳にも行かないしなぁ」

【有島美緒】
「もしかしたら、一緒に行動してるのがすごい間違いで、別々の方が元に戻れる確率が上がるかも知れないしね」

【八木アキト】
「色々試してみるしかないもんな。そうしよう」

【有島美緒】
「とりあえず、今日は一緒に……頑張ろうね、アキト」

【八木アキト】
「ああ、有島」

 私達はいつもより手を強く繋ぎ合い玄関を出る。水道ガスの元栓を閉め、門を一歩……。そこで私達は同時に足を止めた。

【有島美緒】
「あっ……」

【八木アキト】
「今度はいきなり門がトビラだ……しかもこの感じ……かなり飛ばされる?」

【有島美緒】
「飛ばされるけど……この感じ」

【八木アキト】
「イヤな違和感がない……って言うか、懐かしい感じだ! これは……」

【有島美緒】
「いい? 行くよ」

【八木アキト】
「おうっ! いちにのさん、ハイ!」

 ダッ!
 私達はジャンプで門を通過する。

【八木アキト】
「あ、あれ!?」

 草と土と木。そこは、原っぱだった。

【八木アキト】
「道路は? あれ、門も家も無くなってる!?」

 前も後ろも右も左も、どこを見ても原っぱだった。

【八木アキト】
「へぇ〜、こういう飛び方もアリなんだ。さて、どれどれ…………13……では……無い! おい、有島! 時計! 戻ってる! ここは、俺達がいた元の世界だ!」

【有島美緒】
「ここ……懐かしい」

【八木アキト】
「えっ? 知っている場所?」

【有島美緒】
「うん。幼い時、遊んでた私だけの秘密の原っぱ。でも、いつの間にか行き方を忘れてしまった場所」

【八木アキト】
「へぇ〜。……って事は仙台まで飛んだのか!? すげぇ!」

【有島美緒】
「懐かしいなぁ……見て見て、この木の上……まだ残ってる!」

【八木アキト】
「おおっ、秘密基地!? 結構、本格的じゃん。これ、一人で作ったのか?」

【有島美緒】
「思い出した! 私だけの秘密の場所……だったのに、邪魔者が現れたんだ! この秘密基地はそいつと作ったんだ! そいつ、いきなり現れて、私を勝手に敵にして勝手にヒーローごっこに巻き込んで。最初はイヤなヤツだったんだけど、段々仲良くなって───」

 幼い私の前に現れた生意気な同い年くらいの少年。最初は少年が作り始めた秘密基地だった。私は入れてくれない。悔しがった私は、見よう見まねで自分の秘密基地を作り始める。しかし上手く作れない。いつの間にか少年が手伝ってくれていた。最終的には、合体して大きな二人の秘密基地となった。

【有島美緒】
「けど、その少年もそのうちに来なくなって。……今なら分かるけど、きっと、大きくなってトビラを本能的に避けるようになっちゃったんだね。私は一人きりで遊ぶのがつまらなくなって、そのうちに行かなくなって、行き方も忘れて……」

【八木アキト】
「あれ……マ……じゃない。んーっと。ミ……」

【有島美緒】
「あっ、ごめん。私の思い出話に付き合わせちゃって」

【八木アキト】
「……ミオ? そうだ、ミオだ!」

【有島美緒】
「なに? もお、名前で呼ぶような馴れ馴れしい人、嫌いって言ったでしょ!」

【八木アキト】
「や、やっぱりミオなんだ!」

【有島美緒】
「どうしたの? あれ? 私、名前教えたっけ?」

【八木アキト】
「その思い出の少年の名前、”タケシ”じゃなかったか?」

【有島美緒】
「えっ!? どういう事!? 知り合い!?」

【八木アキト】
「俺、俺。それ俺。俺がタケシ!」

【有島美緒】
「はぁ? あんたアキトでしょ?」

【八木アキト】
「当時の特撮ヒーローの主人公の名前がタケシ。俺、ガキの頃なりきっていて」

【有島美緒】
「ええっ!? う、うわぁ、ガキ!」

【八木アキト】
「しょーがないだろ、ホントにガキだったんだから。そう、見覚えがあった訳だ! ミオだったのか! あの頃の面影、結構残ってるもんな。ほら、やっぱり俺達会った事あっただろ!?」

【有島美緒】
「それは……なんと言うか……ビックリして言葉が出ないわ」

【八木アキト】
「やっぱり、勘違いじゃなかったんだ。良く遊んでたのに、物心付いてから二度と行けなくなった場所ってのがここの事。わりぃな。俺が来れなくなってから、寂しい思いさせたみたいだな」

【有島美緒】
「べ、別に寂しくなんか! 一人じゃつまんなかっただけなんだから!」

【八木アキト】
「懐かしいなぁ。へぇ、今見るとこんな小さいのか。初め、気付かなかった。当時の宝物残ってるかな? 覗いてみたいけど、手握ったままじゃ登れないなぁ……入口、トビラになってたりすると危ないよな?」

【有島美緒】
「あっ……駄目ぇぇぇぇぇぇっ!!」

【八木アキト】
「わっ!? なんだよ急に大声で?」

【有島美緒】
「危ないよたぶん! それより、私、ここからだったら帰り方憶えてる! ハッキリと!」

【八木アキト】
「マジ!? 中覗いてみたいけど、ここまで来て危険侵すのもなぁ……うーん残念!」

【有島美緒】
「うん! 早く行こう!」

【八木アキト】
「な、なんだよ、そんなに慌てなくても〜」

【有島美緒】
「いいの! 早く早く!」

 確か、あの時……私は赤面しながら回想する。

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 原っぱ。
 一番大きな木の上には、子供が作ったにしては立派な秘密基地がある。
 秘密基地の中には幼い少女が一人。色鉛筆で壁に落書きしていた。

【幼い少女】
「タケシ、今日も来ない……。タケシの馬鹿。タケシの馬鹿。タケシの馬鹿。タケシの馬鹿。タケシの馬鹿。タケシの馬鹿。タケシの馬鹿。タケシの馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿」

 壁に書かれた「たけし」の文字。しばらく後に書き加えられ「たけし|みお」の相合い傘になっていた。
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★つづく★

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