私は屋敷を見つめ、立ちつくしていた。
 消防士達が、けたましく駆け回っている。そんな喧噪を見つめているのだが、私には音のない世界のように静かに感じられた。
 屋敷はゆっくりと燃え崩れる。それはスローモーションで、ヤケに鮮明な映像に感じられた。

 全てがなかった事になる。人形は元の世界に戻る。存在しない世界へ。これで良かったのだろう。助け出したところで、もう一度『処分』の恐怖を味わう事になる。

 人形の、光が灯らない深淵のような瞳を思い出す。そこに映っていた自分の姿を思い出す。

 ああそうか。
 今更ながらに思う事があった。

 人形の瞳は私を……私の心を映していた。私が悪意を持って接した時は、恐怖で身をすくめているように。私が好意を持って接した時は、人形は甘えてくれるように感じた。

 全てが私の勘違いであったのかもしれない。
 それも今となってはどうでも良い事であった。

 私は、最後の煙の一筋が見えなくなるまで空を見上げていた。
 

 
 



ENDING「BAD END」


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