私は、近くに汲まれていたバケツの水をかぶり、屋敷の中に飛び込んだ。制止しようとした消防士を振り飛ばしたが、お構いなしに一目散に地下室へ向かう。 黒煙が行く手を阻むものの、幸い炎に邪魔される事なく地下室の扉まで辿り着けた。半分燃えてしまっていた扉は、鍵を使うまでもなく一蹴の元に砕け散る。 石造りの階段を駆け下りる。落ちた汗の雫が一瞬で蒸発する。ここにも十分火の手が回っていた。 地下室の入り口では崩れた木材が行く手を遮っていた。それをどかす。しかし、元々粗末な造りの地下室の天井は、その木材によってなんとか支えられていた。 ガクン! 「しまった!!」 天井が大きく揺れる。私は天井が崩れ落ちる衝撃に備え、しゃがんで頭を手で覆った。木片や砂や石が降り注ぐ。しかし、天井はなんとか持ちこたえたようだ。それも時間の問題だろう。天井を支える木材は今にも燃え崩れそうだった。 木材の間に隙間が出来ていた。私では通れそうもない。無理をして通ったら間違いなく天井が崩れるだろう。しかし、小柄なあの人形なら……私はその隙間に頭だけを突っ込み地下室の中を見回した。 人形は、既に火が付いているベットの上に座っていた。 「何をしている!!早く!早くこっちへ来るんだ!!」 人形は感情の計れない瞳をこっちへ向けた。 「早く!!」 私の絶叫に人形は反応しない。いや、歩けない……人形は歩き方を知らないのだ。 「早く!這ってでも来い!!」 人形は、光の灯さない瞳で、ぼんやりと私を見つめていた。翡翠色の瞳に紅蓮の炎が映りこんでいた。 ガクン! 天井がまた揺れた。 私は数秒後に天井が崩れる事を予感した。 |
|