赤い人間が私に近寄る。
 赤い人間は一人ではない。
 十人……二十人……数え切れない。
 私は赤い人間に囲まれた。
 赤い色は血。
 私の両腕は血にまみれていた。
 赤い人間は私に向かい一斉に飛びかかる……

「!!!」
 地下室の薄暗い天井……夢か……
 イヤな夢を見た。私は眠りこけていたらしい。太陽の差し込まない地下室だが、まだ昼間だ。たまには疲れて居眠りする事もある。
 人形の世話だけではなく、見えないところではちゃんと働いているのだ。誰かが血を流す事によって成り立つような仕事だが……

「ん?」
 気が付くと隣には人形が寝ている。横向きに寝転がり私の手にしがみついていた。
 私を掴む白く小さい手が、ヤケに無垢な物に感じられた。

「ったく……」
 人形の束縛を振り払い、私は上半身を起こした。寄りかかっていた小さな頭が、ぽふっ…と軽い音を立てシーツに沈む。
「この手は、血で汚れているんだよ。」
 誰にともなく言い聞かすように吐き捨て、私は自分の手をさする。
「……」
 人形から返事はなく、静かな寝息を立てていた。

 小さな手の平。その手の平を人差し指でつつく。
 くにゅ……
 人形は私の人差し指を軽く握る。それを何度か繰り返す。私は人形が目を覚ますまで寝顔を見つめていた。
 

 
 


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