ウゥゥゥゥゥゥゥゥカンカンカン……ウゥゥゥゥゥ……
 消防車の警鐘が騒がしい。

 私は仕事帰りの車の中にいた。防弾ガラスに守られたリムジン…その後部シートに寝そべるように座り、両側をボディーガードに護衛させていた。詳しく話す事は出来ないが、あちこちから恨みを買うような仕事をしている。
 血で血を洗うような仕事。私の手は血に汚れていた。誰かを傷つける事が私の財産となる。そんな仕事だったが恥じた事はなかった。笑うヤツがいれば泣くヤツがいる。資本主義が生んだ社会の日常だった。

 ウゥゥゥゥゥゥゥゥカンカンカン……
 屋敷に近づくに連れ、消防車の警鐘が騒がしくなる。黒煙が立ち上がる方向を知り、イヤな予感が走った。私の屋敷の方角だ。
 そしてイヤな予感は的中した。屋敷の門には沢山の野次馬とそれを整理する消防士。その人混みを私のボディーガードが蹴散らす。
「私はこの家の者だ!」
 消防士の制止を振り払って門をくぐる。

 屋敷が轟音を立てて燃えていた。
 紅蓮の炎が屋敷のほとんどを包んでいた。

 消防士や警官が必死の作業をしている。その中に使用人の姿を見付け、何があったかを問いただす。

「火炎ビンが投げ込まれただって!?」
 私に恨みを持つ者の犯行だろう。身に憶えのあるヤツの顔が次々と浮かぶ。五人…十人……二十人……犯人特定が難しいほど沢山の顔が次々と浮かんだ。私は苦笑する。

 幸い、火が燃え広がるまで時間が掛かったため、貴重品や重要な書類のほとんどは持ち出せたそうだ。貴重品の中には世界に一つしかないような物も、歴史的な芸術など個人の所有を超えた価値の物もある。

 しかし、その中に一つない物がある事に気が付いた。人形だ。あのクローンはまだ屋敷の地下室に閉じこめられたままだ。

 助けに行くべきなのか?……と疑問がよぎる。この場には警官もいる。消防士や使用人や野次馬の沢山の目がある。存在してはいけないクローン人間。救い出したところで、結末は同じ……クローン人間は処分される。

 私はどうする!?
 人形を……あの少女を……
 

 
 

選んで下さい
見捨てる
助ける