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『いつか来た場所』

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 原っぱ。
 一番大きな木の上には、子供が作ったにしては立派な秘密基地がある。

【幼い少女】
「私も入れてよぉ!」

【幼い少年】
「へへーん。ここは秘密戦隊本部だ! 怪人ミオは入れてあげないよーだ!」

【幼い少女】
「誰が怪人よ! タケシの馬鹿ぁ! けちっ!」
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第1話 「冒険の始まり」

 関東のとある駅前。ショッピングモールと呼ぶには、中途半端に昔ながらの店が残っており、中途半端に近代化が進んでいる。まぁ、語るべき特徴がその程度の平凡な駅前商店街だった。

 俺こと八木明人。高校2年生。ガリ勉でもスポーツマンでもグレている訳でもなく、目立った身体的特徴がある訳でもなく、何事においても普通の範疇に収まる男だ。今までの人生においても、ごく普通に生活してきた。

 ───そう、この夏休みまでは───


 そう、今は夏休み。この日、気軽に連絡できる仲間は部活、デート、塾、だるいなどと都合が付かず、何の予定もなかった俺は地元の商店街を一人でブラブラして暇を潰していた。クーラーの利いた古本屋でゲームの攻略本を立ち読みする。そんな自堕落な暇つぶしに飽きて店を出た所で、彼女と出会う事となる。

 不自然ではない程度にキョロキョロしながら歩いている少女が俺の目に留まった。背が低く少し目つきがキツイ。見覚えのある顔だった……が、名前が思い出せない。同学年だったか、それとも中学校の時の後輩だったか。いや、確かタメ年だったはず。誰だったかなぁと俺はその娘の顔をマジマジと見つめてしまう。彼女も俺の視線に気付く。至近距離で目が合ってしまった。目が合って無言なのもバツが悪いと、俺は気軽に声を掛ける事にする。

【八木アキト】
「よぉ」

【少女】
「…………誰?」

【八木アキト】
「あれ? ほら、俺、八木。八木明人」

【少女】
「……誰かと勘違いしてません?」

【八木アキト】
「あれ? おっかしいなぁ。同じ中学じゃなかったっけ?」

【少女】
「……飛んで……ないよねぇ?」

 少女は、怪訝な顔をして周りを見渡す。

【八木アキト】
「ん?」

【少女】
「ううん、何でもない。勘違いでしょ? 私、地元じゃないから」

【八木アキト】
「あれぇ? 絶対どこかで合ってるって。名前何だっけ?」

【少女】
「もしかしてナンパ? 他、当たってくれる?」

【八木アキト】
「ええっ? ち、違うって! あれぇ、おかしいなぁ」

【少女】
「私、もう行くから」

【八木アキト】
「あ、待って! 誰だっけなぁ? 思い出せそうで思い出せない。うわぁ、すげーモヤモヤする。なぁ、ヒント☆」

【少女】
「教えません。付いて来ないでよ」

【八木アキト】
「コンビニ入るの? ああ、俺も行く行く。今日、○ャンプの発売日だ。知ってる? ここ、○ャンプ、2日早売りしてるんだ」

【少女】
「聞いてない。付いて来ないでって」


 私こと有島美緒。用事で寄った街で変な男に声を掛けられる。悪気はなさそうなのだがウザい。

 ───この男との出会いがあんな事態になるなんて───
 ───この時は全く思いもよらなかった───


 ウィィィン。
 コンビニエンス・ストアの自動ドアが開く。私は一歩店内に足を踏み入れる。

【有島美緒】
「!」

 ゾクッ!!!
 一瞬で全身に鳥肌が立った。違和感。ものすごい違和感。かつて何度も感じた事がある感覚の中でも、滅多にないほど強烈な違和感だ。見た感じは何の変哲もないコンビニの店内である。しかし、そこは違う。私の暮らしていた世界ではない。飛ばされる! この<トビラ>を通ってはいけない! 私はきびすを返そうと、店外に残っている後ろ足へと重心を移す。

 ドンッ!
 私の肩を何かが押した。

【八木アキト】
「あ、わりぃ」

【有島美緒】
「きゃっ!」

 店外への待避は妨害される。崩れたバランスを取り戻した時、私は違和感に満たされたコンビニの店内に両足で立っていた。慌てて店外に飛び出す。手遅れだった。店外にも店内同様の違和感が漂う。一方通行のトビラを通ってしまった。飛ばされてしまった。

【有島美緒】
「何するのよ! 馬鹿ぁ!」

【八木アキト】
「わりぃわりぃ。急に立ち止まるから。そ、そんなに怒るなよ……」

【有島美緒】
「もう! この感じ……うわぁ、ずいぶん遠くに飛ばされたみたいね。これは戻るのに結構大変かも……」

 少女は何やら分からない事をつぶやき、キョロキョロと店内を見渡していた。何やら怒っているようである。俺は少女に話しかけようと思ったが止める。今話しかけては怒りの矛先を向けられると本能的に察知した。

【八木アキト】
「さ、さて、今週の○ャンプは……」
 俺はさりげなく少女から距離を置き、先に用事を済ませる事とした。

【八木アキト】
「あれ、今週の○ャンプ、もう売り切れですか?」

 目的の物が陳列されてなく、俺は近くの棚を整理していた店員に尋ねる。

【店員】
「はい。ああ、済みません。配達遅れてて、3時くらいに入荷するそうです」

【八木アキト】
「3時か」

 それまで立ち読みで時間潰すかなぁ……と、俺は店内を見回し時計を探す。

【八木アキト】
「なんだこりゃ」

【店員】
「はいっ?」

【八木アキト】
「あっ、何でもありません」

 俺は目に入った物に、思わず声を出してツッコミを入れていた。
 それは白地にハッキリした黒文字が刻まれている丸いアナログ時計だ。時計の針は2時半程度を指している。一番上の数字が「13」である以外は、良く見かけるタイプの普通の時計である。

【八木アキト】
「(良く寄っているのに、こんなものがあるとは知らなかった。ジョークグッズ? でもこれじゃ、ホントの時間分からなくて不便じゃないか?)」

 などと思いつつ、俺は時間を確かめるために携帯電話を取り出す。

【八木アキト】
「な、なんだこりゃ!」

【店員】
「?」

【八木アキト】
「あっ、何でも……(あ、あれぇ?)」

 俺は、怪訝そうな顔をしている店員からそそくさと離れ、携帯電話を操作する。携帯電話の時計表示は、デジタル表示ではなく、針がチクタク動くアナログ時計表示に設定していた。その時計も一番上の数字は「13」だった。しかも今日の日付は「7月33日」。曜日は「海曜日」と表示されていた。日付をいじってみる。7月は35日まであった。曜日は「月火水木金土日天海冥」と10曜日あった。

【八木アキト】
「壊れた? なにこれ、オモシレー。あっ、なぁなぁ。これ見てみ?」

【有島美緒】
「何?」

 新聞を立ち読みしていた少女は、不機嫌な顔を面倒臭そうにこちらに向ける。俺は面白い物でも見れば機嫌も直るだろうと、携帯電話の画面を少女に見せた。

【八木アキト】
「なんか、面白い壊れ方してないこれ? ほら7月35日だって」

【有島美緒】
「! ねぇ……7月は何日までだっけ?」

【八木アキト】
「えっ? えっと、30だっけ31だっけ? 夏休みの7月と8月は31日まであってお得なんだよなぁ……だから31日! だよね? なに、クイズ?」

【有島美緒】
「あんたも付いて来ちゃったの!?」

【八木アキト】
「な、何だよ?」

【有島美緒】
「…………」

 私は無言で新聞の日付を指さす。そこには「7月33日 海曜日」と書かれている。次に雑誌コーナーを探す。隔週ビジネス誌の表紙に書かれている「毎月第2第4天曜日販売!」の文字を指さす。

【八木アキト】
「えっ……何これ? あ、ちょっと店員さん〜」

【有島美緒】
「あっ、馬鹿!」

 制止が間に合わなく、男は雑誌を店員の所に持って行き何やら説明している。店員は「何言っているんだこいつは?」と言いたげな怪訝な顔をしていた。男は今度は13時まで文字が刻まれた時計を指さす。変だと言う事を必死にアピールするが、店員には理解して貰えない。店員が困った顔で私を見る。助け船を求めているようだ。どうやら私は知り合いに思われているらしい。なんて迷惑な。男は店員に怪訝な顔をされるたびにムキになる。もうかなりヒートアップしていた。

 ───察しの悪い男だ───
 ───この世界では、それが当たり前───
 ───おかしいのが私達という事にまだ気付かない───

【有島美緒】
「馬鹿っ! 出るわよ!」

 私は強引に男の手首を引っ張りコンビニを出た。コンビニからは見えない距離まで小走りし、人通りの邪魔にならない建物の影に隙間に男を引っ張り込んだ。

【八木アキト】
「ちょ、ちょっと〜!」

【有島美緒】
「馬鹿。馬鹿。もう、恥ずかしいわねぇ! 落ち着きなさい!」

【八木アキト】
「だって、あの店員おかしいぜ? 大体、いたずらにしては手が込みすぎて……お、おい! そこの時計も13時だ!」

【有島美緒】
「あ〜もう、鈍いわね! この世界が変なんじゃなくて、私達が違う世界に迷い込んじゃったの!」

【八木アキト】
「…………はい?」

 俺が我が身に起こった事態を理解するのは、もう少し後の事になる。いつもと変わらない町並み。いつもと変わらない行き交う人々。しかし、この世界は遠い遠い別の世界だった。

 ───こうして───
 ───この異常な世界から、元の日常に帰還する為に───
 ───俺達の大冒険が始まる───

★つづく★

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