ホームへ戻る 感想お待ちしてます(^^)/

いつか来た場所:第6話 [目次に戻る第5話に戻る第7話に進む]

第6話 「気にしない、気にしない」

 朝だ。
 俺はアラームが鳴る前に目を覚ましてしまう。

【有島美緒】
「すー……すー……」

 近くでは、有島が寝息を立てていた。

【八木アキト】
「…………17歳の夏の朝。隣には好みかと聞かれれば、好み寄りな無防備な女の子。そんな都合のいい事が……気のせい、気のせい。こういう時は、気のせいと思いこまないと。フィルターが弱ってるからなぁ。……あれ?」

 頭が回らない。段々意識がハッキリしてきた。自分に起こっている事態を思い出した。昨日の事を順に思い出す。

【八木アキト】
「(うわぁ〜俺、情けねぇ〜)」

 寝る前の醜態を思い出して恥ずかしくなった。

【有島美緒】
「すー……すー……」

【八木アキト】
「有島、あんなものに気付いてて、良く平気でいられるよなぁ。俺よりもっと変なもの見えているんだろうなぁ。見えたまま口に出してたら、怪しい人だよなぁ。結構、苦労してきたんじゃないかな? ちょっとバリアー張ってるみたいな所があるの、そのせいかな? バリアー張ってる割りに、ホント困ってる時は”仕方ない”って助けてくれるんだよな。もしかしたら、すげーいいヤツ? いや、もしかしなくてもいいヤツだよなぁ。なんだかんだで泊めてくれて部屋にも入れてくれて」

 ピピピピッ!

【有島美緒】
「んっ……」

【八木アキト】
「おはよう(ニコニコ)」

【有島美緒】
「きゃー! 起きてたの!? 寝顔見てたの? 最低───っ!」

【八木アキト】
「ぶっ!」

 座布団をぶつけられる。見捨てられそうになるが、ひたすら頭を下げて許して貰う。こうして俺達の2日目の冒険は始まった。

【有島美緒】
「さぁ、今日こそは帰りましょう!」

 手を繋ぎ、玄関をくぐる。

【八木アキト】
「あっ! 俺にも分かった。雰囲気が変わった」

【有島美緒】
「玄関でいきなり。私とアキトが接触した途端これだもの……。でも、そんなに遠くに飛んだ訳じゃない。アキト、良く気付けたわね」

【八木アキト】
「俺も腕を上げたものだ」

【有島美緒】
「それ、フィルターがますます弱くなってるだけだから。えっと、水道ガスの元栓……あれ? 確かこの辺に。玄関の右、玄関の右……」

【八木アキト】
「これじゃないか?」

【有島美緒】
「あ、それそれ」

【八木アキト】
「玄関の左だが……」

【有島美緒】
「気にしない、気にしない。はいOK」

【八木アキト】
「…………とりあえず、朝飯? また駅前かな」

 俺達は駅に向かって歩き始める。

【八木アキト】
「……」

 俺は背中に気配を感じて振り返る。誰もいない。

【八木アキト】
「……」

【有島美緒】
「何?」

【八木アキト】
「足音が……俺達以外に何人かいないか?」

【有島美緒】
「ああ、気にしない、気にしない」

【八木アキト】
「これも良くある事なのか! 有島は良く平気だよなぁ」

【有島美緒】
「まぁ、慣れてるから」

【八木アキト】
「苦労しなかったか? こんな事、誰かに言ったら変人扱いされそうだし」

【有島美緒】
「昔はそれなりにね。でも、どれが普通の人に見えないものかってのが、段々分かるようになって来たから。ほとんど害のないものって事も分かったし」

【八木アキト】
「そっか、急にこうなった訳じゃないもんな。ちょっと心配だったんだ」

【有島美緒】
「えっ……」

【八木アキト】
「(おっ、照れた)」

【有島美緒】
「い、今、心配なのはあんたでしょ。一緒に歩いてて、変なリアクションしないでよね」

【八木アキト】
「(おっ、照れ隠し)」

 俺は有島の習性を把握しつつあった。

 その後のダイジェスト。

【八木アキト】
「今、その10センチくらいの壁の隙間に誰かが挟まって……あれ、誰もいない」

【有島美緒】
「気のせい、気のせい」

【八木アキト】
「うわっ! 今、誰かが俺の肩叩いた!?」

【有島美緒】
「お、大声出さないでよ! 恥ずかしいなぁ! 気のせいよ!」

【八木アキト】
「千円札の変な髪型のおっさんが今笑った! 今の人面犬!? 窓から誰かが覗いてた! あの人、下半身が無い!」

【有島美緒】
「キョロキョロしない! 余計なものを見るだけだから!」

【八木アキト】
「あの赤いワンピの女、すっごい違和感……絶対この世の者じゃない! こっちずーっと見てる。包丁持ってないか?」

【有島美緒】
「だから、キョロキョロしない……今、なんて?」

【八木アキト】
「えっ? 赤いワンピの女が……」

【有島美緒】
「言うの忘れてた。赤は危険色だから……。気を付けて……あれ、相当ヤバい!」

【八木アキト】
「あの女、こっちへ来る……やっぱり、手に持ってるの包丁だ! 血だらけだし!」

【有島美緒】
「駄目、振り向かないで。気付かないフリ。気付かないフリ。あーいうのは、気付いてる相手をターゲットにするから」

【八木アキト】
「な、何のターゲットに……い、いや答えなくていい。知りたくない」

【有島美緒】
「そ、そこの角を曲がったら……は、走れぇぇぇぇ!」

【八木アキト】
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 こんな調子のまま空はオレンジ色になる。

【八木アキト】
「時計のテッペンの数字は相変わらず13だなぁ。元の世界に近付いているんだろうか?」

【有島美緒】
「遠ざかったって事は無いと思うんだけどね……参ったなぁ。また、うち……泊まる?」

【八木アキト】
「いいのか?」

【有島美緒】
「良くはないけど……仕方ないから。でも、一人で寝てよね!」

【八木アキト】
「が、頑張ります」

【有島美緒】
「外泊、大丈夫?」

【八木アキト】
「流石に二日目は……ホントの事、親に話した方がいいかな? このままだと、何よりも食費が辛い」

【有島美緒】
「そうよねぇ。いざの時は、うちの親に説明して貰う様、頼んでみるよ」

【八木アキト】
「ホントお世話になります。とりあえず家に電話を……。(ピッ)もしもし、あっ、兄貴? ……誰? 明人? いや、明人は俺だけど……兄貴だろ、ふざけるなって! そっちこそ……えっ、な、何だよこれどういう事だよ……うわぁぁぁぁっ!!!」

 俺は携帯を放り投げた。

【有島美緒】
「ど、どうしたの!?」

【八木アキト】
「う、うちに電話したら……俺が出た!」

【有島美緒】
「…………き、気にしない、気にしない。良くある事……いや、流石にそれ、私は経験ないけど」

【八木アキト】
「うむ……とうとう師を越えたか。ハハハハハ(←乾いた笑い)」

【有島美緒】
「あ、あはははは……(←乾いた笑い) とりあえず、もう一つトビラ飛んどこう。ドッペンベルガー? ドッぺルゲンガーだっけ? もう一人のアキトに会ったら、何かヤバいと思う」

【八木アキト】
「そ、そうだな……」

 その後、俺の家に行き二人で説明する。説得は難航するが、ふとした事から俺のホクロの位置について議論になる。アルバムの写真と比べた結果……なんとホクロの位置が違う。この世界本来の俺と、俺のホクロの位置は違っていた。これが説得力を後押ししたついでに、理由を「巻き込んでしまうかもしれないから」とすり替える。親は巻き込まれては困ると俺を家から追い出した。なんて親だ。
 だが、おかげで話はまとまった。そんな経緯で、有島の親の助けを借りるまでもなく説得(?)に成功し、多少の資金と食料や生活物資の援助を得る事となった。

★つづく★

いつか来た場所:第6話 [目次に戻る第5話に戻る第7話に進む]

ホームへ戻る 感想お待ちしてます(^^)/