美しい少女の人形。
 人形は限りなく人間そっくりであった。
 クローン少女。
 人権のない人間。
 人と同じ形を持ちながら人と認められない物。
 重大な違法であり、存在してはいけない物。

 彼女は培養液の羊水の中で生まれ、成長した。
 奴隷として育てるため、苦痛のみを与えられ育てられる。
 人の温もりを知らない少女。
 サイレントベビー。
 感情のない子供。
 表情のない人形。
 限りなく人形であった。
 

 

 

 
 早速だが私は人形を手に入れた事を後悔していた。恐ろしく手間の掛かる人形である。

 人形は動かない。動こうとすらしていないように見えた。食事すら一人で出来ない。それだけでなく、欲しがろうともしない。欲求に対するリアクションがわからないのか、欲求自体が欠落しているのかわからない。
 その目に光は届いているのか。その耳に声は届いているのか。わからない事だらけである。私は人形に無理矢理にでも食事を与える事と下の世話に、育児ノイローゼになった主婦の気分を味わされていた。

 違法性の高いクローンだけに、他人に任せるわけにはいかなかった。人形は屋敷の使用人にも知られず、ひっそりと地下室に隠されている。自分の身の回りの世話すら他人に任せている私が、人形ごときの世話に追われる事になった。

「ほれ、喰え。アーンだ。アァァ〜ン。」
 私は間抜けに口を開けてみせる。
「……」
 人形は、無言で表情も変えずに小さく口を開く。離乳食のような液体っぽい食べ物をスプーンで滑り込ませる。食べ物を食べるという当たり前の事を憶えさせるだけで、どれほど苦労した事か。

「よーしよし。良くできました。」
 食事を終えた人形の口をナプキンで拭ってあげる。
「……」
 話しかけても返事はなく、人形は無表情でただ虚空を見つめていた。私は苦笑する。なによりも、その世話に慣れていく自分に苦笑していた。

「育てるだけでは面白くないな。」
 これだけ苦労していて、私のメリットがないのでは面白くない。持て余し気味のこの人形を何に使うか?
 人形を持ってきた商人の話だと、クローン人間を育てる事は『金持ち』と呼ばれる特権階級の間で、秘密裏に流行しているらしい。主な使われ方は性奴隷、陵辱の対象として。極端な例では殺すため、屍姦するため、あらゆる美食を食べ飽きた美食家達が最後の食材として…など、考えられる限りの残酷な嗜好を聞かされた。

「極端な方はなぁ。」
 商人が楽しそうに話している姿を思い出し、胸くそ悪くなる。人と同じ資質を持ちながら人権のないクローン人間は、そういう嗜好を楽しむ格好の対象なのであろう。が、私にはそういった嗜好はない。
 他には医学的な目的で、人体実験など。これは私は医者ではないから関係のない事であった。自らのクローンを作り、自分の体の修理部品にする者もいるそうだが、目の前にいるクローンは、一体誰のクローンなのかさえ謎である。

「結局、ありきたりな使い方しかないようだな。」
 目一杯、卑しい笑みを浮かべて、人形を見下ろした……が、人形は相変わらずの無表情であった。

「とりあえず、脱ぎ脱ぎしましょうねぇ。」
 もちろん人形は返事をしない。私は半ばヤケになっている自分にまた苦笑する。まったく人には見せられない道化ぶりだ。
 ワンピースがはだけ、純白の服と同じくらい白い肌があらわになった。

 さて、この人形をどうしてくれよう。
 

 
 

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