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第2話 「遠い世界」 【八木アキト】 「違う世界に迷い込んだ?」 【有島美緒】 「そう」 【八木アキト】 「つまり、パラレルワールド?」 【有島美緒】 「まぁ、そんなとこ」 【八木アキト】 「そんな馬鹿な!」 【有島美緒】 「じゃあ、あれはどう説明するのよ」 少女は商店街の時計塔を指さす。丸い時計の一番上の数字は「13」だった。この世界の人々は、この「13」が常識だ。それだけでなく、7月は35日まであり、曜日は「月火水木金土日天海冥」と10曜日あるのも常識だ。 【八木アキト】 「ま、待て……いつもと変わらない商店街だよなぁ。昨日も一昨日も来たけど、アレ以外は同じだよなぁ。数字がちょっと変わっただけだよなぁ。パラレルワールドは大袈裟じゃないか? SFチック過ぎやしないだろうか?」 【有島美緒】 「その数字程度に、ものすごい勢いで慌ててたのはあんたでしょうが」 【八木アキト】 「ちょっといいか、電話してみる……。(ピッ)もしもし、俺、俺。お前、山田だよな? 俺の事分かるよなぁ? そうか良かった。ああ、気にしないでくれ。スマンスマン、別に用事じゃないんだが。悪ぃ、また電話する。(ピッ)……ふぅ、俺は俺だ。この世界でも」 【有島美緒】 「ああ、そういう事か。たぶん……時計の13が当たり前だったあんたが、違う世界に飛ばされて14だ〜って感じで慌ててるんじゃないかな?」 【八木アキト】 「な、なぁ。お前って何者なの? 超能力者? 霊能力者? って言うか、誰だっけ? まだ思い出せてないんだよなぁ。……もしかして、なんか俺が既視感あるのもなんかの能力とか? いや、もしかして催眠術とか洗脳とか忍術とか……」 【有島美緒】 「怪しいものを見る目で見ないでよ! 私は別に普通の……ふぅ〜。まぁ、いきなりこんな事を言われて信じろってのも無理よねぇ」 【通りすがりの男】 「あれ? よぉ、アキトじゃん。久しぶりじゃん」 【八木アキト】 「あっ……よぉ」 【通りすがりの男】 「おっ、もしかして彼女? ひゅーひゅー」 【有島美緒】 「違います!」 【八木アキト】 「あれ? お前も知らないって事は小学中学の同級生じゃないって事か」 【通りすがりの男】 「どういう事?」 【八木アキト】 「いやぁ、絶対知っているはずなんだけど名前が思い出せなくて……って、お前の名前なんだっけ?」 【通りすがりの男】 「あ、ひでぇ。小中の付き合いなのに、忘れるか普通?」 【有島美緒】 「もしかして……馬鹿?」 【八木アキト】 「ほらな? 名前思い出すのが苦手なだけだ! 絶対、お前の事も知ってるって!」 【有島美緒】 「ほらな? ……じゃないでしょう! 何の根拠にもなってないわよ!」 【通りすがりの男】 「俺だよ。ヨッシー。カナモリ ヨシオ」 【八木アキト】 「ああ、そうだヨッシー! 思い出したぞヨッシーだ…………!?」 【有島美緒】 「どうしたの?」 私はアキトと呼ばれる男の顔を覗き込む。顔面蒼白で汗を流し震えていた。 【八木アキト】 「!」 【有島美緒】 「キャッ!?」 ダ────────────シュ!!!! アキトは私の腕を強く掴み、走り出した。 【ヨッシー】 「な、なんだよ。邪魔だったか、俺?」 【有島美緒】 「はぁ、はぁ! 痛い! ちょっと! 何よ!?」 【八木アキト】 「ハァ! ハァ! 思い出せない訳だよ! あいつ……死んだヤツ! 中2の時、交通事故で!」 【有島美緒】 「!? 思っている以上に……遠くに飛ばされたみたいね」 【八木アキト】 「な、何だよ……ここはぁぁ!」 俺は急激にザラザラした違和感を全身に感じた。理解する。見た目が似ていても、ここは俺のいた世界とは全く別の世界だ。そして居てはいけない世界。 ───俺は元の世界に帰らなければならない─── ★つづく★ |
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